β次元日記

α次元にはいけない。せめてフィクションの話をしよう。

ジュード・ロウ(母)をみよ【GATTACA感想】

 

 

 ガタカが好きだ。

 ガタカSF映画である。顔がいいことで有名なジュード・ロウが出演する。

 主演はイーサン・ホークで、この二人が同棲し、夢を掴み、そして離れる。そういう映画である。つまり最高の映画ということだ。


Gattaca - Trailer

↑サムネが何だかよく分からないトレーラー。売る気があるならジュード・ロウを出した方がいい 

 

 舞台は近未来だ。SFといっても、アルファ星人その他のややこしい専門用語は出てこない。人間の遺伝子操作が気軽に出来るようになり、身分証明書の代わりに当たり前に血や尿を提出するようになった世界とだけ覚えていて貰えばいい。遺伝子の優劣が全てを決める世界だ。

 

 主人公は、宇宙飛行士を目指している青年だ。幼い時から宇宙を夢見、そして今やその夢に手が届きそうなところに来ている。宇宙飛行局に勤めるエリート、「適正者」として、次の宇宙船のメンバーに選ばれているのだ。上司からの信頼も厚い。

 

 しかし彼には秘密がある。それは、自身の遺伝子情報を偽っているということだ。彼はデザイナーベイビーが当たり前になった時代に、両親のポップなカーセックスによって無整形で生まれて来た子だった。遺伝子には「不適正者」のレッテルを貼られ、宇宙への夢を折られ続けて来た。

 

 しかしどうにも夢を諦めきれず、主人公は闇医者に優れた遺伝子を持つ者との仲介を依頼した。その交換相手がジュード・ロウだ。ここでは交通事故で足を怪我した元エリート水泳選手として現れる。

 人生のうち、やはり一度は「退廃的な雰囲気で煙草を蒸す美青年」を見ておきたい。これは多くの人が抱く夢だが、ここではその夢が叶うのだ。

 

 とにかく、ジュード・ロウは、名前と遺伝子を貸す代わりに、金を得ることを約束する。二人は同じ家に住み、世間を騙す共犯者として暮らし始める。

 このようにジュード・ロウのスーパー遺伝子を借りたことで、主人公は宇宙飛行局の内定を得ることが出来たのだった。

 

 宇宙への切符を手にした後も試練は続く。主人公の職場で殺人が起きて、謎の「不適正者」(=主人公)が疑われて立場が危うくなったり、なんか職場でいい感じになってた女と恋の駆け引きABCだの何だのがある。物語の主軸としてはそちらがメインなのだろうが、しかし腐女子として、取り上げねばならないのは主人公とジュード・ロウの「エモい」関係だ。

 

 端的に言えば、ジュード・ロウは主人公の母に当たる。

 どういうことか。

 

 二人の共通点は、両者とも自分の遺伝子に人生を翻弄されて来た、ということだ。

 主人公(ヴィンセント)は、劣っているが故に期待をされず、夢の宇宙飛行局にも門前払いされて来た。

 一方ジュード・ロウ(ジェローム)は、遺伝子エリートとして大きな期待を背負って来たが、ついぞ金メダルを取ったことは無かった。彼がヴィンセントに誇って見せるのは常に銀メダルで、その顔には常に一抹の悔しさが滲む。金を期待されて銀しか取れない。それは平凡な遺伝子なら無かったはずの悩みだ。  

 

 出会った当初、ジェロームは「遺伝子は貸してやるが、名前は自分のものだ」と、世間 から与えられた評価に対する執着を見せる。 しかし、ヴィンセントがいかに宇宙に憧れているか、そのためにどれだけ努力したかを同じ屋根の下で目の当たりにするうちに、ジェロームは非常に協力的になっていく。

 自分がどこかで恥じていた銀メダルを、ヴィンセントが手放しで褒めたことも、その変化の一つだったのだろう。契約だけの関係から、二人は初めて遺伝子抜きの親友を得る。

 

 そして注目したいのは映画の最後だ。

 警察の嫌疑も晴れ、ヴィンセントが宇宙船に乗って地球を離れたその瞬間。ジェロームは、大量の遺伝子ストックを残して自分自身を焼却してしまう。宇宙と地球。ごまかしも連携も出来ないその距離で、二人の「ジェローム」がいることは致命的なミスを生むからだ。

 

 ヴィンセントが「不適正者」が居た証、フケや髪を焼却して来たその焼却炉で、ジェロームは銀メダルを抱いて幸せそうに自身を焼きつくす。

 それはつまり、遺伝子も名前も君のものだ、という最大のエールであり、献身だ。

 

 エリートらしくあれと期待されて来た男が最後に選んだのは、一番の親友の努力に応え、自分の全てを明け渡して背中を押すこと。

 「不適正者」は栄誉の頂点へ、「適正者」は無償の愛のため独りで死ぬ。この対比が効果的だ。

 ヴィンセントはジェロームから姓(生)と無償の愛を受け、その亡骸の上に立っている。これらのことから、ジェロームはヴィンセントの母だと言える。

 

 

 この映画を観ている人も多いだろうが、観てない人がいればとにかく観て欲しい。母の顔をしたジュード・ロウを観て欲しい、と言うのも勿論あるのだが、観た後に一緒に悶えて欲しいというのが一番の理由だ。

 

 物語の続きを想像する。

 任期を終えたヴィンセントが家に戻った時、そこにジェロームは居ない。「旅行にいく」と言う置き書きを信じて、ヴィンセントはずっと待っているだろう。宇宙飛行で観たものを話すために。しかし地球のどこにも親友は居ない。

 エンドロールが流れた後、ふと、ヴィンセントが誰かに「宇宙飛行かジェロームか選べ」と言われたら、きっと親友の命を取ったのではないかと考えて、堪らない気持ちになる。その苦しさを味わって欲しいと、誰か一緒に同じ痛みに耐えてくれと、そういう、それだけの話なのだ。

 

 思い切りの良すぎる母も考えものですね。

 

 

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