β次元日記

α次元にはいけない。せめてフィクションの話をしよう。

開かずの〇〇ドア

 

痛みを他人と共有しようとするほど愚かなことはない。

私たちは所詮一人だ。


一人で生きて一人で死ぬ。その過程で例え魂の双子のように気の合う人間と出会ったとしても、それはあくまで他人の空似であり、苦痛も、死も、一人で負ってゆくしかないのだ。

 

だから、自動ドアに挟まれることの切なさを説明しても誰も分かってくれない。


そもそも自動ドアに挟まれるということそのものを信じてくれない人がいる。

 

「いや、自動で開くから自動ドアなんであってwwwwwwww」

 

ぬかしよる。側溝に足はまれ。

 

自動ドアに挟まったことのないやつに、挟まったことのある人間の気持ちは分かるまい。

いや、私だって別に常時挟まれているわけではない。くぐるドアくぐるドアで挟まれていたら私は今頃サンドイッチウーマンと改名して奇跡の自動ドア挟まれ女として小銭を稼いでいた。


就活は多分面接会場の入り口が最大関門になるし、挟まれたところを社員に見られたら面接は多分全てそれで終わる。存在感がないやつよりあるやつの方がいいから。

 

何の話?

 

兎にも角にも、私の挟まれ人生は幼稚園児の時から始まっていた。

母とスーパーへ買い物に行った私は、一緒に歩いていたはずの母との距離が、ガチャガチャに目を取られた隙に、少し空いてしまったのに気づいた。

母の背中が自動ドアの向こうに消えていく。

置いていかれる!と思った私は、慌ててその背を追いかけ、そして、挟まれた。

右頰と後頭部を、冷たいガラス戸に、こう、ガチっと。

 

今考えてみれば、多分タイミングが悪かったのだろう。開閉センサーの隙間、存在感の他にみたいなところにはまってしまっただけなのだろう。

 

しかし、自動ドアに挟まれるという概念の無かった幼女にとって、そこは見知らぬ世界だった。
ガラス戸に両側から固定され、母の背中はどんどん遠ざかっていく。
そりゃあ、誰だって自分の娘が自動ドアに挟まれているかも? と立ち止まったりなどしないだろう。
通る/通らないの世界から挟まれる/挟まれないの世界、自動ドアのフロンティアを見た幼い私は、混乱のまま泣いた。


……という思い出がありまして、そこから私にとって自動ドアとは隙あらば挟んでくるやつ、という認識になった。


それは例えば宝箱かと思ったらミミックかよ、みたいな、ミミックと戦ってたらカメラが変な方向向いちゃって自分の背中しか見えず、結局宝箱を開ける前より所持金が減った、みたいな、いや、多分この例えは違う。

とにかく常人にとって自動ドアは開くのが前提なんだろうけど、私にとっては挟まらないかいつも不安に思っている。

対自動ドア疑心暗鬼。100%は信じられない。さすがに。
成人女性はそう易々と挟まれないとは知っていても、心のどこかで「あれ?この自動ドア挟んでくるタイプかな?」と疑ってしまう。

やたら強いNPCが途中から漠然とした理由でパーティーに加わって、あれ?こいついつか裏切る?裏切るよね?戦隊もので言えばブラックだよね?と不安になり、持ち逃げを防ぐために重要装備をつけないでおく、というのに似た心理。


逆に自動ドアが100%開くと思っている人は平和ボケしてない?
自動ドアが100%適切に開くと信じているんですか?
いつかAIが暴走して自動ドアが殺人ギロチンになった時にはどうします?
首が落ちるのは自動ドアに適切に感知されてきた人間ですよ。
存在感のない我々(?)はAIの目を盗んですららっと通るから。いや、でも元々挟まるから新世紀になっても挟まるのか?
まあいいや。

 

用心してても、偶につけたままパーティー離脱されることもあるし。
近所の書店のドアは毎回私の時だけ開くのが遅くて閉まるのが遅い。星乃珈琲店に至っては1分ずっと玄関マットの上で足踏みをしていた。
結局先に来店していた待ち合わせ相手が助けてくれたけど、最終的にめちゃめちゃ笑われた。
「いや、そんな開かないことある?ww」
って。
いるよ。自動ドアの前でじたじたしている女、いるんだわ。目の前に。信じてくれよ。

もう最悪信じてくれなくてもいいんですけど、せめて街中の自動ドアの前に仁王立ちしている人間がいたら、それは自動ドアの概念を知らない不審者ではないこと、ただ存在感が薄々0.1mmの存在希薄の星の下に生まれてしまった人間であるということだけ、覚えておいてください。
そしてついでに開けてください。

 

 

私はといえば、今も大学の自動ドアに挟まれながらこれを書いています。

手をかざすタイプですが、固定されて腕が上に上がりません。

片手でどうにか打っていましたが、もう充電が切れそうです。
春休みに入っているため、あと一週間は人が来ません。


次回のブログでは白骨死体の姿でお会いしましょう。
さよなら。