β次元日記

α次元にはいけない。せめてフィクションの話をしよう。

和牛と温死体の盛り合わせ

 

M–1を観た。

全コンビむちゃくちゃ笑えて熱くて(審査員にまつわる騒動はアレとして)最高だったが、今年の和牛には優勝して欲しかった。確かにジャルジャルは小学五年生だった。霜降り明星もめちゃくちゃ受けていた。だが今年は和牛だったんじゃないのか。

お笑いマニアではないのでデカイことは言えないが、個人的には1本目と2本目のネタが逆であればもしかして……とは思った。去年までのお互いを罵倒するタイプのネタより何倍も面白かったし。

これまで性格の悪いネタを作る小太りとして混同していたとろサーモンの久保田と和牛の水田だが、これでようやく区別がつくようになった。より顔がつるんとして相方が好きで料理が上手いのが水田ですね。

 

1本目の「相方がゾンビになった時に殺せるかどうか」は最高だった。最初の「殺す殺す」の応酬からヒヤリと始まって、次第に白熱する怒涛のボケ。どうなったらゾンビかと言う世界観を説明なしで理解させたのは流石の腕だ。

殺してくれと言う賢志郎。いなして夕飯を作る水田。ゾンビ化を追い越される賢志郎。まんがタイムきららの新連載かと思った。

 

そしてとにかくゾンビだ。オタクは闘争を求めると同時にゾンビを求めている。

もっと言えば、死者と生者の間に生まれる尊い関係性を渇望している。

ゾンビの群れに大事な人を見つけて顔を歪める推しが見たい。ゾンビに感染した受けを自宅に匿う攻めが見たい。自分の葬式に出たい。墓の前で泣いてほしい。

死後に関する欲望は数限りなく、それらを全て叶えてくれる最高の舞台装置がゾンビなのだ。

 

そして和牛によってエモゾンビ欲が掻き立てられてしまった皆さんにおすすめなのがこの映画。

 


映画『ウォーム・ボディーズ』オリジナル予告編

 

ジョナサン・レヴィン監督の「ウォームボディーズ」だ。

ゾンビ映画と聞いて、きっと皆さんの心のお母さんは「やだ、なんか怖そうじゃない? お母さんそういう気持ち悪いの苦手!」と言って近寄るゾンビを切って捨てたことだろう。

だがちょっと聞いて欲しい。これは非常に心温まるゾンビ映画なのだ。「ウォームボディーズ」よりかは「ウォームハーツ」。というのもこの映画は、ゾンビの男と生身の女が恋に落ち、その愛で全てのゾンビと人類を救うという超弩級のラブストーリーなのだ。

基本的には氷がゾンビウイルスに変換されたアナ雪と考えてもらって差し支えない。

 

 

あらすじとしてはこうだ。

ある日ゾンビが大発生し、人類の生存領域が大きく狭められた世界。

主人公は空港をうろつく元気な青年ゾンビ、R。他ゾンビと同じくうめき声を上げる彼だが、一つだけ他のゾンビと違うところがある。それは「意識」が残っていること。

彼には記憶も健康もないが思考だけが残っており、取り残されたジェット機を私物化したり、レコードをかけたりする。死後を満喫しているロハスなゾンビだ。

 

そんなある日、Rはゾンビ仲間と連れ立って空港の外に出る。連れションか?と思うがそうではない。お腹が空いたので人間を食べに行くのだ。

 そう、「ゾンビ映画」と「ラブストーリー」を両立させているのがこの映画の魅力でもある。「人の脳を食う腐った彼ピ」が見られるのは恐らくこの映画でだけだろう。

 

時を同じくして、とある薬品を手に入れるために人類の壁外調査隊が出発。

そして当然ゾンビ一行とご対面。この辺は臓物など出たりするのでお母さんをトイレに行かせた方が賢明かもしれない。

戦闘の最中、Rは調査隊にいた女子に一目惚れをする。そしてゾンビに囲まれピンチの彼女を「僕が守らなきゃ!」と盛り上がって空港に連れて帰るのだ。

ゾンビの巣窟に自分を誘拐したゾンビ。第一印象は最悪だ。が、共同生活をするうち距離は縮まり愛情が生まれる。その後Rがロミジュリばりに人類エリアに忍び込んだり親御さんにご挨拶したり色々あって、最終的には愛が世界を闘争から救う。

 

つい説明しすぎてしまったが、とにかく最高なのでゾンビが苦手な方にも見て欲しい一本だ。

 異類婚姻譚、奥手男子×強気女子、化粧したらイケメンなRなどオタク的に大変美味しいのは勿論のこと「ゾンビでも愛される!ゾンビでも変われる!ゾンビになっても救われる道がある!」と力強く頷いてくれるこの作品は、私たちの日常にも大きな愛と勇気を与えてくれる。

ゾンビと人間。その途方もない断絶と孤独は、現代の断絶にも似ていると言っては言い過ぎだろうか。人間が全ての他者を尊敬出来るともすべきとも思わないが、しかしそれが、断絶された向こう岸に火を放っていい理由にはならない。火だるまにされると人間はすごい疲れるし黒焦げになる。

しかし「ウォームボディーズ」では、現実にあっては見られない、断絶の深い谷に橋をかけた美しい野放図を見ることが出来る。その光景はきっと人を癒すだろう。

 

ギャロップのツッコミに似たハゲ方をしているゾンビのおっさんも、娘がゾンビの彼氏を連れてきて死ぬほど怒るお父さんも、腐りすぎて骸骨になったゾンビ(極)も、みんな愛によって孤独から救われる。ならば生者はなおさらだ。

 

愛と勇気だけが友達だなどと謙虚になっている場合ではない。「ウォームボディーズ」を観たその日から、愛と勇気と全ての生と死があなたの味方になるのだ。

 

 

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