β次元日記

α次元にはいけない。せめてフィクションの話をしよう。

就活とは終活


まことに私的な話題で恐縮だが、最近、就の活をしている。

 

プレエントリーを延々と繰り返す日々。


プレエントリーとは何かというと、エントリーシートを入手するために企業の採用ページでアカウントを取ることだ。

 

企業によっては、ただ個人情報を登録させるだけではなく、やりたい仕事や志望動機、果ては「好きな言葉」「最近気になったニュース」まで一息に聞いてくるところもある。
そしてそういう企業に限って「このページはセキュリティ保護のため、30分でタイムアウトします」と書いてあったりする。

 

エントリーシートだけでも面倒なのに、なぜ更に追撃してくるのだろうか。追い面倒だ。
エントリーシートに全ての個人情報を集約させろ。
とにかく、ページの最後にそういう追加質問が控えていると、どっと脱力感が湧く。

 

なんというか、「ケーキの上にサンタを乗せるバイトだと思っていたら、シフトの最後にコンベアからチョコプレートとチョコペンが流れてきた」みたいな感じ、と言って伝わるだろうか。

「あなたらしいメリークリスマスを書いてください」と言われても。
こっちはサンタを乗せて退勤する気満々で、右手にサンタ持って振りかぶってたというのに。しょげながら右手を下ろす。

そして現場責任者の田中さんに聞く。

これ、サンタを乗せる仕事じゃないんですか。

憤る私に対して、田中さんは一言。

俺も君も、雇われてる側だから。

私は渋々持ち場に戻り、メリークリスマスと書き、ついでに花なんかを書き添えてみちゃったりし、それでもやっぱり、何となく虚しくなって退勤する。

 

閑話休題

 

プレエントリーが終わっても先は長い。エントリーシートを出さねばならない。

これがまた曲者で、webで済むところはいいのだけれど、企業によっては手書きを必須にしているところもある。


私が志望している業界は特殊で、ほぼ全ての企業が手書きを要求してくるから大変だ。
採用HPからダウンロードして、コピーして、パソコンで考えて、下書きして、ペン書きして、を何度も繰り返すことになる。


それも、一文字でも間違えたら書き直しという制約つき。イライラ棒だってもうちょいマシだわ。

最後から3番目の文字を間違えた時なんて、志望業界を変えようかとすら思った。

 

ということを親に話すと、
「昔は全部アナログだったんだから」

と諌められる。


その苦労は分かる。
だが、作業の半分をデジタルが占めている時代に、敢えて手書きと郵送に拘る意味があるだろうか。
AIがなんだ、仮想通貨がなんだ、と言っている時代とは信じられない。

 

しかも、こっちはアナログでもあっちはデジタルなのである。ずるい。


こっちがA社の手書きのエントリーシートを書いてる1時間で、A社から説明会のメールが、B社からエントリーシート配布の知らせが、C社から選考結果が、D社からエントリー締切が明日というメールが来るのである。

 

アウトプットに対してインプットが多すぎる。こっちが一社に誠実に向き合っている最中に、横からどんどんカットインしてくる。


駅混雑時のエスカレーターもかくやというカットイン具合だ。

 

手書きはもう疲れた。
いっそのこと、お祈りメールも手書きにしてくれればなあ、と思ってみる。


多分、企業は大混乱になるだろう。お祈り書を書くために、大量の人員が投入されるからだ。採用担当だけの手に負えるわけもない。

一枚書くのに15分かかるとして、9時から17時までノンストップでやっても一人頭32枚である。大手などは志望者数が多いから、全社員で取り組んでも一週間はかかるだろう。

業務がストップした自社を見て、採用担当は考えるだろう。


「お祈り書を書く係が必要だ」と。

 

採用担当は、密かに「お祈り採用」の枠を追加する。
お祈りされた人間の中から、お祈り書を書く人間が採用されるのである。
基準は、エントリーシートの字がいかに美しいか。敗者復活戦のように、お祈り書係が選ばれる。

 

お祈り書係は、はじめ喜んで仕事をするものの、多くの人間へ機械的に最後通告をしなければいけないという業務の残酷さに、段々と精神を病んでいき、退職者が続出。
新たなお祈り書係を採るも、暫くすると辞めていく。

 

3回ほど繰り返したあたりで、美しい字で書かれたエントリーシートはなくなるはずだ。
人材の枯渇。
企業は新卒採用の再募集をかけるだろう。
それは当然、お祈り書を書くに値する字を書ける人間を裏で採用するためだ。

 

処理しなければならないエントリーシートは加速度的に増えてゆき、社員の負担が更に増加。
最終的に日本企業の業務は全て止まる。
そして日本はAIなどのデジタル革新とは全く関係のないところで、ひっそりと滅ぶ。

遠回りな日本の終活である。

 

ということになるので、手書きエントリーシートの廃止、企業の採用担当者様方は是非よろしくお願いいたします。

 

以上です。

それではまた来週。