β次元日記

α次元にはいけない。せめてフィクションの話をしよう。

これだけ読んどけ2017

  突然ですが、私の2017年漫画大賞を発表します。

 

  私はセンスが良し良しの良し太郎なので、好きになった漫画が後々流行ったりするんですけど、特に人に言わないので、よく後乗りのミーハーみたいに思われるんですね。
  それが嫌なので今のうちに発表します。

というか単に自分の好きな漫画をお勧めしたいだけです。はい。
それじゃあいきます。

 

  あ、それぞれに試し読みのリンク貼っておくのでよろしければご利用ください。


1位 ストレンジ(つゆきゆるこ/リイド社)

 

あらすじ: 6つの優しい物語からなる短編集。
男6組12人が、大切な人との出会いを通じ、希望を持って成長していく。

 

↓pixivコミック

https://www.google.co.jp/amp/s/comic.pixiv.net/amp/works/3420


  まず断言します。これは本の形をした愛だ。

描かれる関係性が、ものすごく美しい。
  ものすごくってどのくらいかと言うと、読み終わった後に
「最の高〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」と言ってでんぐり返しするぐらいです。
あ、分かんない?すみません。

あらすじだけ見るとBLのように見えるかも知れない。が、違います。全然違う。
(⚠︎美しいBLがないというわけではないです、念のため。)

 

  どの短編でも、そこに築かれる関係性は性欲抜きの信頼というか……なに?なんて言えばいい?
  いや、多分この興奮は、読まないと分かんないんですよね。

こういうキャラで、とか、こういう組み合わせで、とか、そういう単純な括りから溢れるものがいくつもあるような、豊かな物語だから。

  ジャンル分けが無粋になる、そういう作品です。

 


2位 『青野くんに触りたいから死にたい』(椎名うみ/講談社)

 

あらすじ: 高校二年生の刈谷優里は、人生で初めて出来た彼氏・青野くんと幸せな日々を送っていた。しかし喜びも束の間、青野くんが事故で死んでしまう。
絶望する優里。だが、彼女の目の前に青野くんが幽霊となって現れる。
再開を喜びつつも、優里は青野くんに触れないことに失望する。
そんな彼女に青野くんは
「君のそばにずっといるから」
と約束する。
幽霊の彼氏とともに、代わり映えしない日常を送るかに見えた優里だったが、しかし……

 

アフタヌーン公式サイト

http://afternoon.moae.jp/lineup/739


  これは狂気の漫画。
  狂気を描ける作家は強い。

 

  狂気というのは言い換えれば、何を入力しても出力が常人の予想を超える、という状態に陥ることなのでは、と考えています。

 

  まあ例えば分かりやすいのが「バーサーカー」的なキャラクターで、あれは外界がどんな働きかけをしようとも、全て反応が暴力で返ってくる。
  だけどそれだけではただの暴力機構になるので、正気を取り戻させる幼女とかアイテムとか幼女とかがいて、強弱をつける。

 

  あるいはライトノベルの敵方に多くいるサイコキラーのように、何が琴線に触れるのか分からないタイプ。
  ブラックボックスの中でバウンドボールのように計算式は変化して、悪漢から少女を救ったと思えばその少女を食べてしまうような、でも翌日に助けた別の少女には札束を握らせ逃がすような。

  この場合、彼が「内面で何を思っているか」は「これから何をするか」以上の秘密です。
内面に持つ計算式が分かれば出力が予想できてしまう。

  背景を知られたサイコキラーが必ず主人公に破れるのはそういうことです。謎が解けて理解されたものは、対処可能になる。

  だから狂気を描く時には、キャラクターが狂気の渦中にいると読者に分からせつつも、しかし内面や背景を説明しすぎてはならない、というジレンマがある。

  その点、この『青野くんに触りたいから死にたい』は絶妙なバランスで主人公の狂気を描いていると思う。

 

  優里の気持ちは分かっています。
「青野くんに触りたい」。

 

そう、その想い自体は作品中でしつこいほど描写されています。
友人の忠告を無下にしようが、自分の身が危うかろうが、彼女の至上命題、青野くんに触ることを達成するためなら何でもしてしまう人間であること。

 

ではなぜ彼女が魅力を失わないのか。
それは、そもそもなぜそこまで青野くんが好きなのか、が十分に説明されてないからでしょう。

読めば分かりますが、彼女が青野くんに告白するまでに費やされているページ数はほんの、ほんの僅かです。
恋をするには5ページも要らなかった。

 

どうしようもなく省かれた状態からスタートしている。これがこの作品のアドバンテージであり、彼女を魅力的に見せているひとつの要素だと思います。
多分、付き合うまでに単行本1巻、いや、1話でも掛かっていたなら、魅力は半減していたことでしょう。

スピードさえ狂った、呪いのような恋の漫画です。


3位 Artiste アルティスト(さもえど太郎/新潮社)

 

あらすじ:パリのレストランで働く青年・ジルベール。彼は仕事のトラブルで、料理人から雑用係に降格してしまう。
日々、汚れた皿を洗うだけの彼だったが、気ままな新人皿洗い・マルコとの出会いによって、その世界は変わり始める。

腕は一流、心は三流。気弱な料理人成長記!

 

コミックバンチ公式サイト

http://www.comicbunch.com/manga/wed/artiste/


これは、主人公がマジで気弱です。
ネガネガのネガ。でもそれがいい。

よくある「人間嫌いの主人公が、強引でポジティブなヒーロー/ヒロインに振り回されて、勇気溢れるポジティブ人間になる」パターンじゃないんです。


ずーっと気弱。でも、主人公は気弱なままで、与えられた仕事に向き合います。

だからこれは食漫画というより、寧ろお仕事漫画と言った方がいいかもですね。

新しい環境や仕事、仲間にビビり散らしながらも問題に対処していくジルベールの姿を見ていると、笑って、泣けて、元気が出るはずです。


多分いつかアニメに、少なくともOVAにはなる予感のする漫画なので、コミックスが2巻のうちに追いついておいた方がいいと思います。ぜひ。ぜひぜひ。ぜひネガ。

 

以上です。おやすみなさい。